Mark Levinson No.38L

創設者の名前がそのままブランド名となったメーカーですが、現在はアメリカのハーマンインターナショナルが保有するハイエンドオーディオブランドの一つとなっています。創設者や世界的な名機を設計した中心メンバーは既に去っており、特徴的な音質も変貌している事で有名です。D/AコンバーターやCDトランスポート、CDプレーヤーなどはその後のマドリガル時代から作られたもので、現在ではハーマンによる新体制になっております。


結果的にたまたまそうなっただけなのですが、玄茶屋ではプリアンプとDACの2つがこのブランドであり、しかも、どちらもマドリガル体制時代の特に創設期からの脱却と言われた時期の製品です。特にプリアンプは、ある意味このブランド第二の初期モデルと言えるのではないでしょうか。


ハイエンドオーディオブランドの初期製品は、良くも悪くもそのブランドの特色が最も色濃く出ている事が多いと思います。そして売れて行くにつれ、モデルチェンジする毎にその特色が薄れて万人に広く受け入れられる音になっていきます。中には面白みが無くなってしまうブランドもありますが、このブランドに関して言えば、その性能の高さが支えになっているためか後のモデルほど評価も高いように思います。マドリガル体制最後期の製品であるNo.360Lと初期の製品のNo.38Lでは、DACとプリで同列には語れない部分もありますが、No.360Lの方が普通に良い音で使いやすいです。


No.38Lは特色という点で言えばかなり色濃く出ていると思います。ただ、その音作りにこそ、このブランドの輝きが秘められている気がしてなりません。システムに一つ、これがあるだけで良いという存在。普通に良い製品は代えが利きますが、これを変えるなら全て見直さないといけないというものです。


そういった製品は、そのメーカーに身を捧げるほど惚れ込めば純正の組み合わせを選ぶでしょうが、そうでない場合もまた多く、その特色が自分なりに最も生きると感じられる組み合わせを模索します。それが見つかった時の喜びは何にも代え難く、容易な事では覆せない満足感を得ることができます。またこの場合、単純に上位機種にすれば良くなるというものでもありません。特にこのブランドの上位機種で採用されているノイズに有利と言われる基盤は、確かに静かになったように聴こえ、ブランドの特色そのものも浮き立たせるものではありますが、同時に高域の暗さなどの欠点も際立たせ、人によってはバランスが取れず行き過ぎに感じてしまうこともあります。


ハーマン新体制後に設計された製品はまだ知りませんが、新体制後の製品が再び人それぞれのベストを模索できるような、懐の深い新しいブランドの個性を出してくれると、オーディオの楽しみが深まります。   

1993年発売。CDというメディアが普及し、入力元に対する照準をアナログからデジタルに思い切って変えた最初のモデルです。この個体が売られていた頃の日本の定価は620,000円(税込み/651,000円)です。同ブランドにおけるプリアンプの最下位モデルであり、上位版にNo.38SLがあります。


それまでのモデルとはデザインからしてがらりと変わっています。旧モデルではオプション扱いだったバランス入力も、内部がフルバランス構成となった事でバランスがデフォルトになりました。アンバランス入力も内部でバランスに変換されるため、アンバランス-バランス変換機としての役割も担うようになりました。このプリアンプと同時期の製品も尽くフルバランス構成で発売されましたが、入力自体はアンバランスのRCA端子が豊富に用意されています。しかしフォノ回路のオプションは無く、ラインアンプ専用になっています。


後継機であり、ベストセラーと謳われたNo.380L / No.380SLは外観にほとんど変更が無く、中身も主に部品変更が謳われるのみであり、その後リファレンスラインのNo.32Lが作られる1999年まで、実質No.38シリーズが同ブランドのプリの牽引役でした。マークレビンソンブランド史上の節目に生まれたこのモデルこそが、現在の同ブランドプリアンプの原型と言えるのではないでしょうか。     

バランス入力は2系統あります。一見少ないようですが、実際に機材が増える場合、まずAVプリを繋げて映像関係をAVプリに集約させれば事足ります。


それではフォノイコライザーがバランス出力だった時に不足するではないかという意見もあるかもしれませんが、Wadia170 iTransportに馴染んでしまうような人間は、レコードにはなかなか傾注できないものです。


そもそも、このプリは完全にCD再生へと軸足を変えた最初のモデルです。モデルチェンジ前にはあったフォノイコライザー内蔵オプションを無くして徹底した合理化を図り、アンバランス-バランス変換機としてのプリの役割を確立させました。


玄茶の場合、音の傾向を主眼に置いた相性によりその役割を無意味にしてしまっていますが、市場的に過渡期の製品である事が幸いしてか極端なバランス主義設計でもないので、ギャングエラーの無い多機能高性能プリとしての位置付けで充分です。               

その音は端正であり、紳士的であり、破綻しない懐の深さを見せてくれます。輪郭は曖昧な方で、低域の膨らみがその傾向に拍車をかけます。しかしその曖昧さは変化に富んでいます。音の響きが消え去る間際、その微々たる変化も掴んで離しません。


後継機の上位機種ではその傾向が強化されています。音の消え去る空間の静けさは絶品です。その代わり、若干の暗さが伴います。


No.38Lは決して明るくはありません。しかし押さえつけられた閉塞感も感じさせません。完璧にまとめ切った音とはまた違ったその自然な音の集合は、組み合わせるパワーアンプによって芯が通された時、一音の打撃と散り様が奇跡的なバランスを見せます。


また、その紳士的な振る舞いはパワーアンプの持つ固有の音色を引き出します。覆い隠さず、しかして誇張せず、極めてさりげなく聴き手に音色を届けます。魅力的な音色を持つパワーアンプにとっては、これ以上無いパートナーと言えるでしょう。

GOLDMUND MIMESIS 28 EVOLUTIONとの相性が抜群で、後継機や上級機種、店頭試聴、自宅試聴、特に某氏から借りたー機種名を書くと問題なので伏せますがー絶対的上位で世間的には最良とされるはずの、パワーアンプとは純正組み合わせとなるモンスタープリアンプとの比較において、私にとってはこのモデルが最善であると結論付けました。

逆に、No.38Lと純正組み合わせとなるパワーアンプでは、店頭試聴ではあるものの、慎重に聴き込めば鳴らせているNautilus 802が、不思議とまるで抑揚を感じず、死んだ魚の目を覗いたような音になっていました。後日、音が硬すぎる事で有名な某SPが同じ組み合わせで上手く解れて鳴ってくれていたのを聴き、プリ・パワー・スピーカーの組み合わせの難しさを改めて認識した次第です。


GOLDMUND、Mark Levinson共、新製品になるほどニュートラル嗜好で無難な音作りにシフトしていますから、現在ではこの頃ほどのゴールデンコンビでは無くなっている傾向です。


特に28EVOは増幅段、電源回路、出力端子等々が色々と付け加えられる前の最後のモデルですから、技術系の人間に蔑まれるほどのシンプル・イズ・ベストが織りなすムダの無い音に対し、No.38Lと組み合わせる事でその突出したクセを活かしながらも包み込み、奥深くに隠されたほのかな色気を引き出します。

常時通電が基本で、電源スイッチは存在しません。電源ケーブルを差し込む事で電源が投入されます。その後、スタンバイモードにすることは可能です。


インレットが筐体底面にあるので、電源ケーブルはL型プラグで特注するか、足場そのものを持ち上げてケーブルを差せるようにする必要があります。筐体のネジ止め部分にもなっている純正の足には、裏に硬いゴム素材が貼付けられていますので、同社のCDトランスポートが大理石置いた状態で音作りされていたことに倣い、電源ケーブルを差すために持ち上げる足場には、大理石が適当と思われます。


電源ケーブルには、Kimber SelectのKS-9038をAC化した物を使用しています。以前使用していたSynergistic ResearchのResolution Reference Mk2 Master Coupler X-Seriesと比べると、KS-9038のL/Rを束ね計4本使用して出来上がった電源ケーブルは、空間全体に満ちる音数の多さが圧倒的ですが、基本的な方向は同じで、No.38Lの弱点である高域方向の伸びをカバーします。ただし、Resolution Reference Mk2 Master Coupler X-Seriesと異なるのは、アクティブシールディングによるS/Nとは真逆の、開放的な躍動感とヌケの良さが加わる所で、No.38Lの音作りにはこちらの方が合うと感じます。


プリ自身は全段バランス構成ですので、例えパワーアンプへはアンバランス出力となろうと、不要なバランス化回路を介さないよう、可能な限りバランス入力を使用します。不要な回路は設定で落とせますが、空いているRCA端子やXLR端子には、全てCARDASのキャップを取り付ける事で、若干ノイズフロアが下がるように感じます。


別室に置いてあるDENKENのDA-7050HG(200V入力仕様)から、Synergistic Researchを模して片側をNAOK式銀コンセント仕様とした自作の電源ケーブルを介して電力を供給しています。No.32Lと違い、出力段とコントロール+電源部別筐体となるわけではありませんし、生成される電源も300Hzではなく60Hzです。そしてトランスではなくインバータ電源であるという違いはありますが、色付けや癖が競合したりすることなく、S基盤化によって得られるような深い空間へ吸い込まれるような滑らかな響きの減衰が得られます。逆にS基盤化では得られないような、高く澄み渡り拡散していく響きも細やかに描き出してくれるため、S/Nに偏重した際の暗さは感じられません。また、低域の膨張や緩み、フォーカスの甘さも改善され、少なくとも上位機種へのグレードアップに勝るとも劣らないパフォーマンスを得ているように思います。

全段バランス構成になっており、アンバランス入力も全てバランス化されます。

ボリュームは左右誤差の非常に少ないタイプで、小音量でもギャングエラーに悩まされる事はありません。デジタルコントロールによる調節なので、いつも正確に同じ音量に調整出来ます。入力毎の音量差の補正設定やAVプリを使用する際のスルーモード等、現在でも使い勝手は最高レベルの非常に多機能なプリアンプです。


ボリュームの手触りはあまり良くありませんし、便利ではあるものの手応えの無い操作感もイマイチ好きにはなれません。ただ、ボリュームノブは汚れやすいですし、視認性の良い本体表示もありますから、リモコンを使用した方が何かと便利です。ボリュームノブは、化学スポンジでの掃除がオススメ。

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