システム


Dynaudio Confidence C2

 

デンマークのスピーカーメーカー、DYNAUDIO(ディナウディオ)です。


ヨーロッパのメーカーで、カタカナが当て字しにくいとよく言われている気がしますけど、自分自身、初めて英語のメーカー名を見た時は、ダイナオーディオだかダインオーディオだか、なんて読むのかわかりませんでした。一応、日本の正規代理店の正式な呼び名としては、ディナウディオとなっているようです。まあ、元々外国の物ですから、日本語的にどう読むかなんてのはどうでもよいのですけれども、個人的にはディナウディオという呼び名は愛嬌があって好きな読み方です。


ドライバーユニット供給のメーカーとしても有名で、海外ハイエンドメーカーに採用されている例も多く、特に少し昔の有名なスピーカーなどでよく目にします。自分自身がそうなのですけれども、スピーカーとしてのDynaudioは知らずとも、ウーファーの特徴的なカットが入ったセンターキャップに見覚えがあるなんて人は結構居るのではないでしょうか?現在はドライバーユニットの供給は止めたとかで、あまり見かけません。


現在のEVIDENCEシリーズは1999年からと比較的新しいもので、Dynaudioの源流と言えるのはCONSEQUENCEだと思います。


などと知った風な事を言ってますが、EVIDENCE MASTERを幸いにも試聴させてもらった事があるだけで、CONSEQUENCEのほうは残念ながら聴いたことがありませんから、訳知り顔で断言できる事でもなかったりします。また、CONSEQUENCEの流れを受け継いだと思われるSPECIAL 25や、CONSEQUENCEが孤高のリファレンスであった頃のCONFIDENCE 5も、残念ながら聴けておりません。

したがって、見た限りの作りの違いなどからしか書く事はできないのですが、それでも、小口径ダブルウーファーの3wayを上下対象に積み上げたトーテムポールのような細長く背の高い異様な姿のスピーカーと、30㎝ウーファーを頂点に置いた倒立配置の5wayスピーカーでは、作りが違っている事など見ただけでも明白です。


まず、EVIDENCEシリーズから現在のCONFIDENCEシリーズに言える事は、とにかくエンクロージャーが細いという事です。所有していて悪く言うのもなんですが、細くするために様々な工夫がしてあり、それが必要ということは、つまり無理をしているのではないかと思うのです。CONSEQUENCEはかなりどっしりとした佇まいですし、SPECIAL 25や旧CONTURシリーズは、オーソドックスな四角い箱で、堅実さが表れているかのような姿です。特にConfidence5などは、見た目コンパクトでムダが無く、デザイン的に大変好ましく感じています。Dynaudio自身、箱は四角くしっかり作るもので、ミーハーに丸く作る事などしないといったような事を謳っていたりもしています。


堅実な四角い箱の利点は、やはりしっかりとしたエネルギー感に出るのではないかと思います。重いウーファーをきっちり動かすためには、背後に音圧をしっかりと受け止める平面が必要だという事なのかもしれません。旧シリーズでも比較的細身のトールボーイ型が多いのは、限られた一般家屋のスペースにおいて、空間を奇麗に広く描くことと音のエネルギーを両立させた結果ではないかと思います。


今まで色々なスピーカーを聴きましたが、流線形の水滴型の箱も個人的には好きです。付帯音を削り取って音だけが空に佇む感じがよく出ますし、例えばB&WのSignature 805などでは、それでしか得られないような澄んだ世界が広がります。


それとは逆に、シンプルで堅牢な四角い箱のDynaudioの低域は細らせずに太く描写しているように感じられますが、それはウーファーに相当のエネルギーを要求した結果ではないかと思いますし、そういった音を出すためには付帯音と共にエネルギー感までをも削ってしまうわけにはいかないのかもしれません。                     


一世代前のCONFIDENCEシリーズとはかなり設計が異なっています。


C2と同じくフロア型であるCONFIDENCE 5では、下からツイーター、スコーカー、ウーファーとする倒立配置で、密閉型のエンクロージャーをユニット毎に分割し、ウーファーの後ろに同相のウーファーを仕込み、エンクロージャー内のエネルギーを抑え込むという構造でした。


C2のツイーターはESOTAR2です。ネットワークは定インピーダンス設計だということなので、CONFIDENCE 5等と比べ、パワーアンプの選択が比較的容易になり、鳴らしやすくなっているらしいです。


ユニットは仮想同軸のような配置ですが、一般的な仮想同軸と違い、ツイーターが2基あります。クロスオーバーも上部と下部では2.2kHz/8kHzと随分異なっています。これらはDDC(ディナウディオ・ディレクティビティ・コントロール)と名付けられており、指向性を制御して反射音の影響を減らしていると謳われています。クロスオーバーに関しては、小型2wayのCONFIDENCE 3だと2.6kHz、フロア型3wayのCONFIDENCE 5では4kHzですから、C2の8kHzのクロスというのは、3way的な中域を出すためのものでもあるのかもしれません。


バスレフポートは、若干無理があるとも思えるエンクロージャーの形状から生まれる大きな余剰エネルギーを逃がしつつ、低域の増強も兼ねた物と思えます。カタログスペック上では28Hz-25kHz(±3dB)とされていますが、30Hzあたりでほぼ完全にポートのみから低音が出るようになっています。つまりウーファーからリニアに出てはいないわけですが、そもそも30Hzの波長など10m以上ありますから、完璧に再生させようと思うと50畳とか60畳が必要になってしまいます。聴いてわかる範囲ですが、C2でウーファー自体から音圧が下がらずちゃんと出せているのは60Hzくらいまでなので、マニュアルで想定されている8畳程度なら、若干足りない程度かあるいはギリギリカバー出来る範囲だと思います。


しかし何故、それより下の帯域まで出しているのかと言えば、波形が完璧に再現出来ないからといって無くしてしまう事がベターではないという判断なのでしょう。やはり有ると無いとでは、有った方が良いのだと思います。


上位機種であるCONFIDENCE C4では、リアポートの位置がキャビネットの最上部と最下部に位置していて、おそらく相当に低い帯域を出しているでしょうから、余剰エネルギー排除の役割が非常に大きいのではないでしょうか。


特徴的な外観ですが、エンクロージャーとフロントバッフルがダンピング材を介して分離されていて、ネットワークの収められているベースとも分離されているらしく、エンクロージャーはもとより、最終的に床へ伝わる振動がかなり小さくなっているように思います。フロントバッフルはかなり硬く、比較的柔らかなエンクロージャーとは対照的です。上下に長く柔らかなエンクロージャーは、振動の減衰に一役買っていそうです。フロントバッフルが独立している事により、エンクロージャーは低域再生のための容量稼ぎとしてだけでなく、事実上小型2waySPであるフロントバッフル部分を支持するスタンドと見る事もできます。バスレフのリアポートの位置は、フロントバッフルの直ぐ下にあり、このスピーカーで再生可能な全体域が、2基のツイーター間を中心とした上下40㎝以内で発音されています。これが上位機種のCONFIDENCE C4では、3wayとなる事によって上下一対のウーファーが追加され、バスレフポートの位置も、キャビネットの背面の最上部と最低部に一つずつとなり、発音部は広く分散されております。これは上位機種であるEVIDENCEに近い形であり、その点から見ると、C2というモデルこそが異端とも言えます。


このように様々な要因から、C2というモデルは、2m程度という近距離で、広いFレンジと正確な定位からくる広い音場を、可能な限り高い次元で両立せんがための設計であるように思えてなりません。

Confidence C2は、EVIDENCE、CONSEQUENCEに続く、CONFIDENCE Cシリーズの中堅機です。上位機種にはConfidence C4があります。


購入時の定価は1,700,000円(1,785,000円/税込)でした。その後値下げされ、1,450,000円(1,522,500円/税込)になっています。海外定価は12,000ドルですから、以前の定価だとレート計算上は1ドルが約142円で、現在の定価では1ドル約121円になっています。ヨーロッパ圏の定価では10,500ユーロ、実売価格だと7,999ユーロというのをネット上で見たことがあります。レート計算上は、定価178万だと約162円、定価152万だと約138円になりますから、世界中何処でもだいたい同じくらいの価格で買えるようです。2008年からの急激な円高によって、1ドル85円とか1ユーロ109円などという水準になりましたが、世界的な不況ということもあり、一概に割高割安を断ずる事は出来ないでしょう。デフレ独国日本においては小売業者を中心に値下げコールがありますが、市場全体を冷静に見回せば、円高還元程度の値下げで市場全体の販売不振を挽回できるはずもなく、Dynaudioというブランドのファンの一人としては、着実に利益を確保して企業の存続に努めて欲しいところです。Dynaudio自身、無闇な拡大戦略はとらず、率直に値上げする事を述べていますから、心配はいらないでしょう。


なお、一世代前のCONFIDENCEシリーズのトップモデルであるCONFIDENCE 5は、最終定価1,500,000円(1,575,000円/税込)で海外定価は10,000ドルでしたから、レート計算上では1ドルが150円となり、フルモデルチェンジによって実質定価ベースでは随分と大幅な値下げを行ったと見えます。


CONFIDENCE Cシリーズは、センタースピーカーを除くと、C1、C2、C4がありますが、海外のカタログにはC7というモデル名と、実物写真ではなく絵が載っています。C1は小型2wayでユニット総数は2基、C2がフロア型2(3)wayでユニット総数が4基、C4がフロア型3(4)wayでユニット総数が6基です。スピーカーシステムの構成としては、3wayでユニット総数が4基であるCONFIDENCE 5の拡大版の後継機がC4であり、小型2wayであるCONFIDENCE 3の後継がC1であるように見ることができます。C2は、悪く言えば価格差穴埋めのためのまさに中堅モデル、良く言えばCONFIDENCE 5の縮小版の後継機と言えそうです。無論、玄茶屋としては後者の言い分を採用したいところで、更に言うならば、CONFIDENCE 5とは異なる理念で、一般家庭における最上クラスの音楽再生を実現したモデルです。


玄茶室は普通よりも手狭な方だと思いますが、少々普通とは言い難い対策を施すことで一般家庭の8畳程と同等とした空間で鳴らされたC2の帯域バランスは、数十畳というかなり広い空間で聴いたEVIDENCE MASTERと近く感じられました。


CONFIDENCE C2は、Dynaudioの新しい流れの中の製品でも一際異彩を放つ作りをしているスピーカーですが、いずれの位置付けにせよ、出てくる音に関しては、正にリファレンスの流れを汲んだ製品である事に間違いはありません。

非常に音色の色彩が豊かでみずみずしく、ソフトドームとは思えないほど伸びの良い高域と、厚みがあってエネルギー感のある中域、芯がありつつ深く伸びる低域が、それぞれ上下の帯域の境界がわからないほど良くつながり、まとまっています。


空間の透明度も非常に高く、SPの前に出る音やエネルギーと奥へ展開する音や減衰する余韻が、視覚的に見えるほどのリアリティを持ちながら手前も奥も質的な差は感じられず、聴感的に違和感がありません。全域において前後左右の空間全体で一体感があります。自由で開放感のある空間に、一音一音の距離が整理されて音場が形成されているので、閉塞感や束縛感は感じられません。


事実上Fレンジの広い2wayですが、聴感上、中域にディップや濁りは感じられず、むしろ非常に澄んで聴こえます。低域はバスレフそのものの出方ですが、ユニットから出る音とポートの音とのつながりは非常に良く、境界部分の判別は困難です。


全域で高いエネルギー感を出しますが、音像表面のディテールからくる感触は柔らかく、立ち上がりの速さや鋭さよりは、響きの美しさに耳が向きます。そのため、弦楽器のソロなどでは利点が目立ちますが、オーケストラなどで揃った演奏の際には、音圧のピークまでの瞬発力に若干の不足を感じることもあります。ただし、それが目立った欠点としてストレスを感じるわけではなく、同水準でその点を得意とする全く異なる傾向の製品なら聴いたことがあるものの、それにはまた別の欠点があるというだけの話です。


逆に、異なる傾向の製品では、塊としてのエネルギー感と瞬発力の両立が最終的に自分の望む形にはなり難いと思った故のC2という選択でしたから、望んだ通りの傾向であると言えます。


基本的に、奥行き方向への音場展開を得意とするスピーカーですが、高域、中域、低域が驚くほど上下にブレませんから、室内の反射音を整えてやれば前に出るべき音はグイグイと前に出るようになります。

一般的な6畳の部屋には、短辺側にSPをセットする場合と、長辺側にSPをセットする場合があると思います。


どちらが良いかは一概には言えません。


一般論としては、低域のかぶりを解消させやすいのは長辺側だと思います。しかし、例えば3way以上のユニットが縦一列に並んでいるようなSPでは、SPと聴取位置の距離をなるべく取らないと、音像が帯域別にズレて音像の位置や音場そのものを崩してしまう事があります。そのような場合は、短辺側で聴取位置との距離を優先して調節した方が、最終的には上手く行く可能性が高いと思います。


個人的には、SPと聴取位置との距離を最優先に設定すべきだと考えています。低域や一次反射などは、後からでも対策は可能ですが、SPと聴取位置との距離を後からどうこうするのは不可能ですし、それによって崩れた音像や音場も、どうにもできないからです。ただし、SPとの距離と言っても必要な距離は機種ごとにそれぞれ異なりますから、実際にはやっぱりどちらが良いと言えるものではありません。


C2の場合、マニュアルに指定してあるスピーカーと聴取位置との標準距離は2mで、実際には1.9mでも大丈夫でしたから、一般的な6畳のサイズの部屋であれば、短辺側でも長辺側でも置けるでしょう。


最終的な判断は実際に色々な置き方を試してみないとわかりませんが、経験的に一つ言える確かなことは、王道は強いということです。短辺側置きや長辺側置き、それぞれの前後逆はもとより、部屋のコーナーを正面としたセッティングや、そこまで行かずとも部屋の中心をあえて外して左右非対称に使うオフセットセッティング、今まで使ってきたオーディオで遊びも含めれば、馬鹿みたいな事まで散々やりました。そして最終的に落ち着いたのは、ほぼ聴き手とSPが正三角形で部屋の左右がなるべく均等になる基本的な短辺側置きでした。


SPの内振りに関しては、マニュアルでは積極的に調整する事を推奨しているようです。基本は聴取位置後方数十㎝で交差させる角度となると思います。ただし、左右の壁の一次反射面次第で最適な角度が色々と変わります。一次反射面の角度を変えられるようにしてから色々と試しましたが、反射音の調整次第でほとんど内振りを無くすセッティングでも、ストレス無く違和感の無い音場構成はできました。


しかし、王道はやはり適度な内振りと、聴取位置へ音圧を集中させる角度の反射壁の存在です。聴取位置直上の天井の傾斜面をSP側へ向け、左右の壁の傾斜面を聴取位置側へ向ける事で、音像が上ブレることなく奥行きも損なわずに前に出るべき音が前に出て、前後左右に広大な音場形成が可能です。

このスピーカーで聴いたことがあるアンプは、当たり前ですが所有している200V仕様のGOLDMUND MIMESIS 28 EVOLUTIONと、オーディオショウで聴いた某国産ガレージメーカー製のアンプだけです。


以前使用していたB&WのMatrix 802 Series3というスピーカーや、今はもう別のお店になってしまった元ダイナミックオーディオ・アクセサリーセンターで聴いた様々なスピーカーでは、かなり沢山のアンプを聴いてきました。そのような経験から、C2は今持っている28EVO(200V仕様)で充分に鳴らせている状態と感じています。完璧かどうかは永遠の課題ですが、とりあえず不足はないでしょう。アンプとスピーカーの相性という意味でも、とても良い部類だと思います。


実はこのスピーカーを購入後、色々と忙しくなってしまって、まともにお店に試聴しに行けなくなってしまっています。いずれ、色々なアンプで鳴らされたC2を聴いてみたいものです。

マニュアルに記載されている基本の設置間隔は、左右のスピーカー間が2m、スピーカーから聴取位置までの間が2mです。ただし、左右のスピーカー間はスピーカーから聴取位置までの間よりも狭くするのが原則とされています。そして、スピーカー背後の壁までは50㎝以上空け、SP横の壁までも同じく50㎝以上空けます。


それらの条件を実際の部屋の大きさに当てはめてみると、基本サイズとしてはだいたい300cm×352cm(江戸間8畳程度)の広さが、CONFIDENCE C2を使用する部屋として想定されているようです。そしてセッティングの際には通常、基本的に自由の利かないスピーカーから聴取位置までの間の距離を基準としますので、スピーカーから聴取位置までの間が2mなのであれば、左右のスピーカー間は180cm〜190cm程度にするのが自然です。そうすると、マニュアルの解釈次第で286cm×382cmの本間6畳程度でもCONFIDENCE C2の設計上想定された部屋の広さの範囲内にはなんとか収まりそうです。誤解を恐れず大胆に言ってしまえば、CONFIDENCE C2は6畳間で鳴らせるよう設計されているとマニュアルに書いてあるという事です。


旧玄茶室では、左右のスピーカー間が約163㎝、スピーカーから聴取位置までの間が約190㎝でした。スピーカー背後の壁とは約37㎝、横の壁とは約43㎝離れていました。全体的に、想定されているセッティングよりも一回り小さな状態ですが、左右壁面の音響板との距離やスピーカー背後の壁面までの距離を、一次反射を基準に㎜単位で丁寧に揃えたり、天井の石膏ボードを取り外して30㎝ほど天井を高めてしまう等することで、ホールの奥まで良く見通せるような音場が得られ、聴感上耳障りになるような低域の膨張感はほぼ取り除けました。これは、そこそこ広めの試聴室でも取り除けなかったものです。


どんなスタイルにも当てはまるというわけではないでしょうが、少なくとも自分の経験に限っては、重要なのは部屋の広さではなく、部屋の縦横高さの寸法比です。


実際にスピーカーからサイン波を再生してみると、部屋の寸法比から生じる定在波が、聴取位置では低域の特に50〜60Hz付近に耳障りな圧迫感膨張感を伴うピークとして感じられたのですけれども、天井高の調整により相当解消されている事が確認できました。


天井高などはかなり裏技的ですが、それができずとも部屋のコーナーやスピーカーの真横の壁など、要所要所に吸音材のトラップを仕込めばなんとかなります。天井高を稼いだ上で更にトラップを使えば、セッティングの自由度が増す事でしょう。


CONFIDENCE C2は、その背の高い大きな見た目に反し、オーディオ専用に江戸間6畳の空間があれば、極端な対策を施さずとも充分良い音で鳴らす事ができるスピーカーです。ただし、耳の高さをツイーターに合わせるとか、吸音材や部屋全体での音響を考えるという基本的なポイントは外せません。DDCという設計もあり、耳の高さには比較的シビアです。ツイーターの位置が高いので、特に2m程度のマニュアル基準距離で聴く場合、沈み込むソファーでは耳の高さが低過ぎて音場の高さ方向が損なわれます。空間表現を重視するならば、高さ調節可能なオフィスチェア等を選択する必要が在るでしょう。


CONFIDENCE C2に限らず基本的な事ですが、床面積が広ければ何でも良いという考えは間違いです。広さを基点にした考え方は、室内で発生する各周波数の疎密がどのように発生するかという問題を捉えたものですから、前後左右という2次元ではなく、高さも含めた3次元を前提としなければ現実と一致しません。


よくコップに入った水を揺らす例えを聞きますが、それで説明出来るのは擬似的な疎密の発生を視覚的に捉えるところまでで、コップの大きさ以上の波は溢れてしまうから波長の長い低域は無理などという説明は、非常に乱暴なものですから注意が必要です。部屋の空気は水ではありませんし、部屋の中と外が水と空気ほどの異なる物質になっているわけでもありませんから、コップの例えの見た目と、実際の音波の観測はまず一致しません。普通の部屋に納まらないような長い波長の音は透過しやすいですし、折り返しの波長が重なりませんから、かえって音楽再生において問題は起き難いものです。問題が起きるのは、むしろ部屋の中に収まる波長の方です。


また、部屋を斜めに使うのは単に一次反射の距離を稼ぐだけの意味で、当たり前ですが図面上横向きを斜め向きに見ただけで平行面が存在しなくなるわけがありませんから、根本的な解決にはなり得ません。かえってスピーカーの設置スペースの自由度が損なわれる場合が多いと思われますので、素直に左右の壁に反射板等を使用して対策した方が難易度は低いでしょう。


ただし、一般的に売られている反射板や拡散板は非常によく鳴きますから、見た目の仕上げを除けば、高価な市販品よりも合板による自作反射板の方が良いでしょう。ただの合板にクッションを縫い付けるだけでも相当良い物が出来ます。フローリングなど、実用との兼ね合いで仕方の無い部分はともかくとして、積極的に部屋の響きを再生音に乗せるようなことは避けましょう。

GOLDMUND MIMESIS 28 EVOLUTION

Goldmundは、スイスに本拠を置くハイエンド専業オーディオ機器メーカーです。

日本の輸入代理店Stellavox Japanではゴールドムンドと呼称されています。ただ、ドイツ語の発音ならばゴルトムントが近いとか。まあ、日本語での言い方なんて多かれ少なかれ元とは違うわけですが。ヤポンてなにさ。


プレーヤーからアンプ、スピーカー、ケーブルアクセサリーに至まで幅広く商品展開しているメーカーです。元々は買収されてから今のような形で再スタートしたようなものですし、目を付けた自社以外の製品の中身を使い、一部補強したり外装と電源を強化したりして商品価値を高めようという姿勢なので、必ずしも突出した特別な技術があるというわけではありません。


ユーザーになった人は「聴いて気に入ったから」というシンプルなきっかけが多いようです。そもそも技術力を売りにしているのではないのですから、当然といえば当然です。それでも、このメーカーが日本で一定のファンを獲得している理由は、その音が日本人の嗜好に合っているからでしょう。ハイエンドオーディオでは、どのメーカーにも少なからずそのような要素が売り上げに占めていたりしますから、単純に音が良いと多くの人に認められる製品を出すという力は過小評価出来るものではありません。広告戦略だけで売れるなら、いかにも技術力でどこにも負けないと謳うメーカーの方がよほど有利なはずですから。


他のAyreやDynaudioなどと同様、新製品になるほど普遍的な音へシフトしていく傾向があり、昔の製品のファンも根強くいます。特にアンプの型番が一桁の製品は神聖視すらされているようです。玄茶屋が聴いたことがあるのは所有している28EVOからですが、JOB2モジュールからJOB3モジュールにマイナーチェンジした際、若干線が太くなって低域が増すという傾向に必ずしも前面同調できず、バージョンアップを見送った経緯などもあり、一桁製品を好む嗜好は理解出来ます。


しかし逆に、プリアンプの27EVOでは、内部のモジュールだけA2からA20に交換されたタイプを聴いた時に非常に良くなったように感じました。A2物では、聴き手を突き放すような気品が少しばかり緊張感を強いていたのですが、A20物だと上品さを失わずに肌に馴染む柔らかさを感じました。まあ、だから手持ちのプリアンプを買い替えるかというと、そうは思わないわけですが。その辺りの選択に、嗜好がモロに出ている気がします。


何せ、D/Aの技術に定評のあるメーカーのCDトランスポートを選んでおきながら、同じメーカーのDACはトランスポートによって輪郭だけで中身スカスカになるからと言って違うメーカーにしたり、プリアンプは好きだがパワーアンプは嫌いで純正の組み合わせだともっと嫌いと言ってフルバランス伝送を売りにしているメーカーとシングルエンドしかないGoldmundを組み合わせてしまうような人間ですから。


こう書き連ねてみると、なにもこれほど徹底して真逆を行かなくてもいいような気もしますが、たとえ技術的に正しい回答はこうと言われても、その正しい回答とやらで出てくる音がアレなら、そんなものはタダでもいらんのです。


というように、良くも悪くも人によって趣味趣向の違いが非常にハッキリと出るメーカーと言えます。

 

SRライン、ハイエンドライン、アルティメイトラインというクラス分けされたラインナップ中、ハイエンドラインにあたるパワーアンプです。購入時の定価は1,030,000円(1,081,500円/税込)。現在は製造終了となっています。


SRラインはモジュール型の利点を生かした非常にコンパクトなモデルで、スマートなスタイルを提案したものです。それがハイエンドラインではかなり異なり、どでかい電源を積んでいることでサイズが大きくなり、重量も増しています。アルティメイトラインはその傾向を更に極端にさせたもので、電源も更に大規模に、外装のアルミや鉄板も分厚くなって、その重量は一人では持ち上げる事が困難なほどです。


このハイエンドラインのステレオパワーアンプは、ほぼ同型のモデルが発展してきていまして、MIMESIS 8〜MIMESIS 8.5〜MIMESIS 28 / 28 EVO〜MIMESIS 28 M / 28 MEと続いてきました。

ステレオパワーアンプ2台分の規模でモノラルパワーアンプも同様にモデルチェンジされていましたが、そちらはMIMESIS 8.2〜MIMESIS 28.4 / 28.4 EVOまでで一旦更新が止まり、しばらくしてステレオパワーアンプの半分の規模を片ch分とするMIMESIS 18.4 M/ 18.4 ME / 18.4 ME-D(DAC内蔵)になることでハイエンドラインにモノラルパワーアンプが再登場することになりました。


一旦ハイエンドラインのモノラルパワーアンプが消えた経緯は、関係者からの取材によると、モノラルパワーの28.4が良過ぎて本来上位機種のはずのステレオパワーの29が売れないためだということです。ステレオパワーアンプ好きとしては29を好むところですが、ハイエンドラインとアルティメイトラインでは音作りが異なり、アルティメイトラインではガチリと硬く締まった表現になりますから、28のほどほどに締まって芯のある表現にスケール感のみを追加したい場合など、確かに29よりも28.4の方がニーズは高いかもしれません。


そしてMIMESISシリーズからTELOSシリーズに変わってからは、ステレオパワーアンプはラインナップから消えました。ステレオパワーアンプ好きとしては残念な状態です。


28EVOの天板はメタクリレートパネルです。昔のモデルでは鉄板で、後のモデルではカーボンとメタクリレートの張り合わせです。


この個体にはJOB2モジュールが搭載されています。Goldmundの場合、モデルチェンジ直前のロットにはモデルチェンジ後のモジュールを載せる事があるようで、JOB3版の28EVOも存在します。JOB3へのアップグレードサービスもありましたから、比較的弾数は多いかもしれません。


基本的にJOB2版の28EVOにはスタンバイモードやアッテネーター、専用コネクタ、DACの内蔵とデジタル入力などは無く、仕様は初期の一桁ナンバーモデルとほぼ一緒です。正直、JOB3が正式に載ってからのME版やTELOSシリーズなどのモデルに搭載された端子類や多機能化の尽くは自分に取って不必要で、シンプルなこのモデルが気に入っています。

Goldmundのパワーアンプは非常に高い周波数までフラットに増幅するため、発振しやすい事で知られておりますが、歴代シリーズの中でも28EVOは何故か実際に発振するケースが非常に少ないモデルと聞きます。

バックパネルの大部分は、JOBモジュール冷却用のヒートシンクです。音量を上げると触れなくはない程度に熱くなりますが、無音時は季節にかかわらずほんのり温まるくらいなので、常時通電には支障ありません。無音時の消費電力も150W程度と、比較的低いです。後継機はスリープモードなどが搭載され、スリープモード時には100W程度に消費電力が抑えられています。


ただ、このアンプは、シンプルイズベストこそが信条なのではないかと勝手に思っているので、余計なものが追加されるのが果たして良いことなのか、甚だ疑問であります。


モジュール式により回路が小型であるため、面積・体積が小さい分、アンテナが小さければ受信し難いのが道理であるように、ノイズには物理的に強いと思われます。小型化は日本の専売特許ですが、小さい回路に巨大な電源部を合わせるという、ミスマッチとも思えるようなアンバランスな構成が、独特の音の出方に表れています。


Goldmundのバランス端子は無くても良いような代物のようです。一応説明書には、プロ用機器の為の600Ω受け用だと記載されています。それ以外の内部配線は、同社のLINEAL INTERCONNECTケーブル、LINEAL SP ケーブルと同じ線材が使われているようです。


内部の回路をモジュール化し、非常に小さくした事で物理的にノイズに対して有利な構造となっています。モジュールは背面ヒートシンク部分に取り付けられていて、ヒートシンクと筐体はインシュレーターで分離されているようです。構造から察すると、L/Rひとつずつモジュールがあるように見えます。この28EVOに使われているのはJOB2モジュールです。そして何故か、普段は全く見えない内部なのに金ピカのプレートがあります。

JOB2モデルと以降ナンバーモデルとの違いは、純粋にモジュールのみを入れ替えた個体を聴いたことが無いため断言できませんが、傾向的には低域が太くなり、普遍的なバランスへと変化している気がします。


筐体の大部分は電源トランスで、その電源部もボックスに入っており、筐体と一体化されています。このボックスにもプレートがあります。モノーラルアンプである18.4MEは、この電源部が28系とは最も異なり、単にトランスが左右分かれているだけではあるのですが、上位機種である29MEにおいて、筐体内であってもわざわざトランスを左右分割してBOX内に収めていることからすると、相応の利点があるものと思われます。ただし、18.4は小さいとはいえ、置き場に妥協すれば、音場の広さというモノーラルアンプの利点が、中央を付近で左右が大きくズレてしまうという欠点に化けてしまうでしょう。


ただ、音が気に入って欲しいと思ったアンプが常にステレオアンプであるとは限りませんし、実際にモノーラルアンプを使う上で色々なノウハウがあると思います。自分自身それなりにアイデアもあったりしますので、もしかして将来機材が入れ替わる事があったりしたならば、前述の欠点が出ないよう工夫をしている事でしょう。いずれにせよ、電源も含め相応の覚悟が必要なのは確かだと思います。


2008年9月1日から、MIMESISシリーズ向けにバージョンアップサービスが始まりました。内容は、電源フィルター(AC Curator)の追加と数点のパーツ交換、更にMEモデルのみバランス入力基盤の取り付け(オプション)と、オーバーホール。料金は税込み168,000円。(現在は代理店も変更しており、サービスの有無と料金の詳細は分かりません。)

広い空間に明快に音像が浮かび上がるため音の出方が立体的で、明暗のハッキリしたコントラストの高い描写をします。


低音は膨らまず引き締まったタイプです。印象を表現するための言葉としての駆動力というものを、低音の量感として捉えた場合、駆動力が無いというイメージを持つかもしれません。しかし、駆動力というものを低域の明瞭さや音階の明確さとして捉えている場合、駆動力は高いと言えます。


Goldmund特有の音色はほんの僅かに感じられるだけで、固有の音色を主張し過ぎずパワーアンプの音色を引き立てるタイプのプリアンプを使っていなければ、あっさりかき消されてしまう程度です。


全域でカッチリとした芯を感じさせる音の出方ですので、多少ふくよかなタイプのプリと相性が良く感じます。


王道は純正の組み合わせなのでしょうが、自分としては純正の組み合わせ、特にこのモデルと同時期のA2版のMimesis 27 Evolutionだと高貴過ぎる気品が近寄り難さを感じてしまうので、どうしても純正ペアということであればふわりとした白雪の色香を持つA20版の27EVOを推します。


しかしマイ・ベストはMark LevinsonのNo.38Lです。上位機種のNo.38SLでも後継機のNo.380L / SLでもなく、もちろん 旧Mark Levinsonブランドの臭いを残す26シリーズでもなく、 No.38Lです。CD再生を主眼に置き、Mark Levinson氏の抜けた第二期Mark Levinsonブランドとして革新的な変化を遂げた第二のブランド初期モデルは、普遍化してしまった上位機種や後継機では味わえない明確な方向性を感じさせます。Wilson AudioのSYSTEM X以外まともに鳴らないMark Levinson純正ペアの評価に隠れてしまいがちですが、GOLDMUNDのシンプル・イズ・ベスト志向を極めた一桁モデルの後継たる28EVOのほのかな色気を感じさせる空間と芯のある音像描写の対比、事実上のMark Levinsonブランド第二期初号機No.38Lの端正な音色と開放的でふくよかな低域の組み合わせは、一つの時代の象徴に相応しい品格と何処まで追い求めても底の尽きない深みを感じさせます。

比較的鳴らし易いと言われている Confidence C2を鳴らしています。中途半端に鳴らせていない場合に起こる、部屋の悪影響と勘違いしやすい中低域での飽和感を出したりする事無く、滑らかな質感を聴かせてくれています。なお、鳴らし難いと評判のConfidence5でもDynaudioを推している事で有名な吉田苑によると、100V仕様の28EVOで充分鳴らせるらしいですから、不足はないでしょう。


入力はアンバランスを使用します。バランス端子も付いてはいますが、内部を見みましてもRCA端子から分岐させてとりあえずXLRを付けただけというものですから、使わない方が良いでしょう。


ケーブルはTransparentのRSEを使用します。空間の透明度の高さと低域の解像度の高さがGoldmundの音作りを生かしてくれます。Transparentはケーブルについている箱の部分で100kHz以上の信号成分をカットしているらしく、万が一上流から不意に大量のノイズが流れ込むような場合があっても安心できます。Goldmundの広帯域設計は増幅時の位相特性を理想的な状態に近付けるためのものと謳われているので、100kHz以上を手前でカットしてもその動作そのものの利点は失われないと思います。ちなみに、純正であるリニアルにもケーブルにBOXが付いていますが、もしかしたら同様の処理をしているのかもしれません。


電源ケーブルは、このアンプの音作りを生かすことを重視するならば、MITのZ CORD III(Oracle Z3)という選択が手堅いです。基本的に、なるべくパワー用に設計された大電流対応のケーブルを選択するのが好ましいのは言うまでもありませんが、Z CORD IIIの彫りの深い空間表現は、モジュール式に共通する立体感のある音像と空間の対比を一層際立たせます。立体感を損なわずに低域を若干ファットにする方向も、補完的相性の良さを感じさせます。


優等生的理想としては、以前muimui氏に借りて聴いたSynergistic Research Absolute Reference A/C Master Coupler X2が最良だと考えています。芯の強い音像描写と広大な音場、そして膨張感の無いフラットな低域の伸びは、個性による味付けの好みを超える真っ当な魅力がありました。アクティブシールドによる空間の深さはZ CORD IIIとは異なる個性ですが、能力的には優位性を感じます。


挑戦的選択をするならば、Synergistic Research Designer’s Reference SQUARED Master Couplerが一つの頂点でしょう。Synergistic Researchはモデルチェンジ毎に普遍的な性能の向上を果たしているケーブルメーカーですが、反面、個性は減退しています。奔放で開放的な洪水の如き情報量と余裕で深くまで伸びる低域、何よりも鮮やかな色彩感は、他では得られない麻薬的な魅力を放ちます。


設置場所は、スパイクが筐体に直結されており、足回りが非常に敏感ですので注意が必要です。石や金属製のスパイク受け、木材等を合わせて使って上手く誤魔化すか、共振がよくコントロールされた聴感上癖の出難い物の上に置かないと、まず間違いなく音色や音場が濁る事になり、元々僅かしかない色気を阻害してしまいます。その点、Music ToolsのISOstatic Floorampは、40kgの重量でも反る事の無い厚さの異なる3層の強化ガラス板が共振周波数を可聴帯域外に追いやることで、28EVOの濁りの無い空間表現を更に生かします。


SPケーブル用の端子は小さく、手締めでは充分な固定が出来ないので、12mm径のソケットレンチを使って適度に締め付けます。締め過ぎはケーブルの端末を歪めてしまったり、下手をすると端子を壊してしまいますので、注意が必要です。

200V仕様への変更は、輸入元のStellavox Japanに依頼しました。手数料は税込み12,600円でした。


GOLDMUNDのパワーアンプは、頻繁に細部の仕様が変更されていますが、電源周りも例外ではないようです。28MEの内部では、簡単に取り外せるPCの基盤電源用にも似た樹脂製のコネクターを、100Vと書いてある下のソケットから、隣の200Vと書いてある下のソケットに付け替えるだけで電源仕様の変更が可能となっていました。しかし、JOB2物の28EVOでは、半田付けされたショートワイヤーを付け直さないといけないようです。


その他の変更点としては、電源仕様とは関係ないと思いますが、どうやら内部配線の引き回しにも手が加えられたようです。トランスからJOBサーキットへの配線において、スピーカー端子への配線と、RCA端子からの配線と同様に被せられていたメッシュスリーブが取り払われています。その代わり(?)に、ケーブルそのものが切り詰められて最短距離で繋がれているようにも見えます。18.4MEで謳われている、電源経路短縮の改良を施してくれた・・・・・というのは、都合の良すぎる解釈でしょうか?ともあれ、見た目だけでも1/3程度切り詰められて短縮されているようです。確認してもらったところ、本来メンテ用に長めに配線されていた物だが、もう必要無いので短くしたとの答えでした。できればメッシュスリーブは付けておいて欲しい気がしましたが、元々緩いメッシュですし、それほど影響は無いかもしれません。それよりも、素直に最短化された事を喜ぶ事にしました。


音質の改善は著しく、Fレンジの拡大と共に空間も全方位拡大しました。低域方向の限界で鈍り始めていた領域の解像度も改善しました。3次元的に広く展開する立体的な音像描写は、まるでワンクラス上のアンプのようです。

このモデル以降、最終的に28MEの定価は税込み1,554,000円になり、税込み1,081,500円だった28EVOの頃から比べると、JOBサーキットの世代交代による性能向上を差し引いても、C/Pは低くなったと思えてしまうのですが、200V化した28EVOであれば、仮に以前の定価が現在の定価と同じだとしても、充分納得できます。

Mark Levinson No.38L

創設者の名前がそのままブランド名となったメーカーですが、現在はアメリカのハーマンインターナショナルが保有するハイエンドオーディオブランドの一つとなっています。創設者や世界的な名機を設計した中心メンバーは既に去っており、特徴的な音質も変貌している事で有名です。D/AコンバーターやCDトランスポート、CDプレーヤーなどはその後のマドリガル時代から作られたもので、現在ではハーマンによる新体制になっております。


結果的にたまたまそうなっただけなのですが、玄茶屋ではプリアンプとDACの2つがこのブランドであり、しかも、どちらもマドリガル体制時代の特に創設期からの脱却と言われた時期の製品です。特にプリアンプは、ある意味このブランド第二の初期モデルと言えるのではないでしょうか。


ハイエンドオーディオブランドの初期製品は、良くも悪くもそのブランドの特色が最も色濃く出ている事が多いと思います。そして売れて行くにつれ、モデルチェンジする毎にその特色が薄れて万人に広く受け入れられる音になっていきます。中には面白みが無くなってしまうブランドもありますが、このブランドに関して言えば、その性能の高さが支えになっているためか後のモデルほど評価も高いように思います。マドリガル体制最後期の製品であるNo.360Lと初期の製品のNo.38Lでは、DACとプリで同列には語れない部分もありますが、No.360Lの方が普通に良い音で使いやすいです。


No.38Lは特色という点で言えばかなり色濃く出ていると思います。ただ、その音作りにこそ、このブランドの輝きが秘められている気がしてなりません。システムに一つ、これがあるだけで良いという存在。普通に良い製品は代えが利きますが、これを変えるなら全て見直さないといけないというものです。


そういった製品は、そのメーカーに身を捧げるほど惚れ込めば純正の組み合わせを選ぶでしょうが、そうでない場合もまた多く、その特色が自分なりに最も生きると感じられる組み合わせを模索します。それが見つかった時の喜びは何にも代え難く、容易な事では覆せない満足感を得ることができます。またこの場合、単純に上位機種にすれば良くなるというものでもありません。特にこのブランドの上位機種で採用されているノイズに有利と言われる基盤は、確かに静かになったように聴こえ、ブランドの特色そのものも浮き立たせるものではありますが、同時に高域の暗さなどの欠点も際立たせ、人によってはバランスが取れず行き過ぎに感じてしまうこともあります。


ハーマン新体制後に設計された製品はまだ知りませんが、新体制後の製品が再び人それぞれのベストを模索できるような、懐の深い新しいブランドの個性を出してくれると、オーディオの楽しみが深まります。   

1993年発売。CDというメディアが普及し、入力元に対する照準をアナログからデジタルに思い切って変えた最初のモデルです。この個体が売られていた頃の日本の定価は620,000円(税込み/651,000円)です。同ブランドにおけるプリアンプの最下位モデルであり、上位版にNo.38SLがあります。


それまでのモデルとはデザインからしてがらりと変わっています。旧モデルではオプション扱いだったバランス入力も、内部がフルバランス構成となった事でバランスがデフォルトになりました。アンバランス入力も内部でバランスに変換されるため、アンバランス-バランス変換機としての役割も担うようになりました。このプリアンプと同時期の製品も尽くフルバランス構成で発売されましたが、入力自体はアンバランスのRCA端子が豊富に用意されています。しかしフォノ回路のオプションは無く、ラインアンプ専用になっています。


後継機であり、ベストセラーと謳われたNo.380L / No.380SLは外観にほとんど変更が無く、中身も主に部品変更が謳われるのみであり、その後リファレンスラインのNo.32Lが作られる1999年まで、実質No.38シリーズが同ブランドのプリの牽引役でした。マークレビンソンブランド史上の節目に生まれたこのモデルこそが、現在の同ブランドプリアンプの原型と言えるのではないでしょうか。     

バランス入力は2系統あります。一見少ないようですが、実際に機材が増える場合、まずAVプリを繋げて映像関係をAVプリに集約させれば事足ります。


それではフォノイコライザーがバランス出力だった時に不足するではないかという意見もあるかもしれませんが、Wadia170 iTransportに馴染んでしまうような人間は、レコードにはなかなか傾注できないものです。


そもそも、このプリは完全にCD再生へと軸足を変えた最初のモデルです。モデルチェンジ前にはあったフォノイコライザー内蔵オプションを無くして徹底した合理化を図り、アンバランス-バランス変換機としてのプリの役割を確立させました。


玄茶の場合、音の傾向を主眼に置いた相性によりその役割を無意味にしてしまっていますが、市場的に過渡期の製品である事が幸いしてか極端なバランス主義設計でもないので、ギャングエラーの無い多機能高性能プリとしての位置付けで充分です。               

その音は端正であり、紳士的であり、破綻しない懐の深さを見せてくれます。輪郭は曖昧な方で、低域の膨らみがその傾向に拍車をかけます。しかしその曖昧さは変化に富んでいます。音の響きが消え去る間際、その微々たる変化も掴んで離しません。


後継機の上位機種ではその傾向が強化されています。音の消え去る空間の静けさは絶品です。その代わり、若干の暗さが伴います。


No.38Lは決して明るくはありません。しかし押さえつけられた閉塞感も感じさせません。完璧にまとめ切った音とはまた違ったその自然な音の集合は、組み合わせるパワーアンプによって芯が通された時、一音の打撃と散り様が奇跡的なバランスを見せます。


また、その紳士的な振る舞いはパワーアンプの持つ固有の音色を引き出します。覆い隠さず、しかして誇張せず、極めてさりげなく聴き手に音色を届けます。魅力的な音色を持つパワーアンプにとっては、これ以上無いパートナーと言えるでしょう。

GOLDMUND MIMESIS 28 EVOLUTIONとの相性が抜群で、後継機や上級機種、店頭試聴、自宅試聴、特に某氏から借りたー機種名を書くと問題なので伏せますがー絶対的上位で世間的には最良とされるはずの、パワーアンプとは純正組み合わせとなるモンスタープリアンプとの比較において、私にとってはこのモデルが最善であると結論付けました。

逆に、No.38Lと純正組み合わせとなるパワーアンプでは、店頭試聴ではあるものの、慎重に聴き込めば鳴らせているNautilus 802が、不思議とまるで抑揚を感じず、死んだ魚の目を覗いたような音になっていました。後日、音が硬すぎる事で有名な某SPが同じ組み合わせで上手く解れて鳴ってくれていたのを聴き、プリ・パワー・スピーカーの組み合わせの難しさを改めて認識した次第です。


GOLDMUND、Mark Levinson共、新製品になるほどニュートラル嗜好で無難な音作りにシフトしていますから、現在ではこの頃ほどのゴールデンコンビでは無くなっている傾向です。


特に28EVOは増幅段、電源回路、出力端子等々が色々と付け加えられる前の最後のモデルですから、技術系の人間に蔑まれるほどのシンプル・イズ・ベストが織りなすムダの無い音に対し、No.38Lと組み合わせる事でその突出したクセを活かしながらも包み込み、奥深くに隠されたほのかな色気を引き出します。

常時通電が基本で、電源スイッチは存在しません。電源ケーブルを差し込む事で電源が投入されます。その後、スタンバイモードにすることは可能です。


インレットが筐体底面にあるので、電源ケーブルはL型プラグで特注するか、足場そのものを持ち上げてケーブルを差せるようにする必要があります。筐体のネジ止め部分にもなっている純正の足には、裏に硬いゴム素材が貼付けられていますので、同社のCDトランスポートが大理石置いた状態で音作りされていたことに倣い、電源ケーブルを差すために持ち上げる足場には、大理石が適当と思われます。


電源ケーブルには、Kimber SelectのKS-9038をAC化した物を使用しています。以前使用していたSynergistic ResearchのResolution Reference Mk2 Master Coupler X-Seriesと比べると、KS-9038のL/Rを束ね計4本使用して出来上がった電源ケーブルは、空間全体に満ちる音数の多さが圧倒的ですが、基本的な方向は同じで、No.38Lの弱点である高域方向の伸びをカバーします。ただし、Resolution Reference Mk2 Master Coupler X-Seriesと異なるのは、アクティブシールディングによるS/Nとは真逆の、開放的な躍動感とヌケの良さが加わる所で、No.38Lの音作りにはこちらの方が合うと感じます。


プリ自身は全段バランス構成ですので、例えパワーアンプへはアンバランス出力となろうと、不要なバランス化回路を介さないよう、可能な限りバランス入力を使用します。不要な回路は設定で落とせますが、空いているRCA端子やXLR端子には、全てCARDASのキャップを取り付ける事で、若干ノイズフロアが下がるように感じます。


別室に置いてあるDENKENのDA-7050HG(200V入力仕様)から、Synergistic Researchを模して片側をNAOK式銀コンセント仕様とした自作の電源ケーブルを介して電力を供給しています。No.32Lと違い、出力段とコントロール+電源部別筐体となるわけではありませんし、生成される電源も300Hzではなく60Hzです。そしてトランスではなくインバータ電源であるという違いはありますが、色付けや癖が競合したりすることなく、S基盤化によって得られるような深い空間へ吸い込まれるような滑らかな響きの減衰が得られます。逆にS基盤化では得られないような、高く澄み渡り拡散していく響きも細やかに描き出してくれるため、S/Nに偏重した際の暗さは感じられません。また、低域の膨張や緩み、フォーカスの甘さも改善され、少なくとも上位機種へのグレードアップに勝るとも劣らないパフォーマンスを得ているように思います。

全段バランス構成になっており、アンバランス入力も全てバランス化されます。

ボリュームは左右誤差の非常に少ないタイプで、小音量でもギャングエラーに悩まされる事はありません。デジタルコントロールによる調節なので、いつも正確に同じ音量に調整出来ます。入力毎の音量差の補正設定やAVプリを使用する際のスルーモード等、現在でも使い勝手は最高レベルの非常に多機能なプリアンプです。


ボリュームの手触りはあまり良くありませんし、便利ではあるものの手応えの無い操作感もイマイチ好きにはなれません。ただ、ボリュームノブは汚れやすいですし、視認性の良い本体表示もありますから、リモコンを使用した方が何かと便利です。ボリュームノブは、化学スポンジでの掃除がオススメ。

Mark Leinson No.360L


Mark LevinsonのCD再生用D/Aコンバーター最後のモデルです。購入時の定価は980,000円。その後、1,050,000円に値上がりしました。値上げと同時期にソフトウェアのバージョンアップも行われていますので、非公式なマイナーチェンジが行われたと考えられます。この個体は、初期の不具合を徹底して直させたので、基盤ごとソフトウェアも最新バージョンとなっています。

本国定価は5,000ドル。内外価格差はかなりあると言わざるを得ません。しかし、実際に日本円で50万クラスの内外価格差の小さい評判の良いDACと聴き比べてみると、音の細部のディテールに相当な格差があり、おかしな現象ですが日本円としての値付けに納得感があります。それは単なる個人の好みの差だろうとも言い切れず、新品DACの購入目的で比較試聴をしていた人が偶々中古で入荷していたレビンソンのDACを聴いてみたら、内外価格差からすれば実質同グレードである50万のDACや日本製のDACと比べ、滑らかだが粒子が大粒でディテールが粗かったり細部は良く描くが密度感が不足したりなど、それぞれ不満に感じていたポイントを奇麗さっぱり解消してなお余裕の表現力を見せつけられ、結局新品ではなく中古品へ変更してしまったなどという現場にも遭遇した事があります。尚、アレも聴いてみれば良いのにとその人に囁いたのは、何処かの知らない玄茶さんです。


Mark Levinsonというとアンプが余りにも有名過ぎて認知されていないようですが、Mark Levinsonブランドの中でD/Aコンバーターは間違いなく名機を排出しているジャンルです。

マルチビットDAC(24bit)。誤差制度0.004ppmのクロックを搭載。参考までに、ESOTERIC G-0sは0.00005ppm、同 G-0は0.1ppmです。クロック端子はありませんが、D/A変換直前でメモリーによるジッター除去とクロックの打ち直しをしていますし、そのクロックにしても一応数値上、ルビジウムほどではないものの最新のクロック機材を考慮するのが絶対条件というほどではないレベルだと思います。


デジタルフィルターに、処理能力10Mbit/sを超えるアナログデバイス社製32bitDSP「SHARC」を搭載し、96kHz/24bitまで対応しています。DSPによるHDCDにも対応。


デジタルフィルターによる、352.8kHz/24bit or 384kHz/24bitデータへのアップコンバーション処理を内部で行っています。これは、同社のCDプレーヤーNo.390SLが発表された際に謳われた機能ですが、No.360Lにも搭載されています。最新バージョンのソフトウェアを積んだNo.360Lでは、そのコンバーションデータのディスプレイ表示が可能となっています。

プリのNo.38Lと同じ傾向の端正な音色です。プリよりもバランス良く上下ともすっきりと伸びきり、非常にワイドレンジです。音像や響きの細やかなディテールを非常によく出してくれますので、特に音の出から消え際までの滑らかなグラデーションがお見事。


正反対の音作りのDACとしては、CelloのRDACが挙げられます。某氏よりモジュールをViola製にバージョンアップした物を貸していただき、じっくり聴き比べました。芯のしっかりした立体的な音像が際立って感じられ、VRDS、RDAC、GOLDMUNDラインによる一つの方向性は、ある意味極致であると思います。


上位機種のNo.360SLは、360Lを土台に、徹底したノイズフロアの低さと低域の密度の高さを付加してきますので、少し濃厚な味付けになります。

このモデルの購入時に比較検討した際、トランスポートとの相性によってベストチョイスが変わってくると感じました。トランスポートに左右方向の音場など全体的な空間表現が得意な物を持ってくるなら、上位機種を選択するのが良いと思います。逆に、音像の密度や立体感、奥行き方向に深い音場を得意とするトランスポートの場合、No.360Lの方が好ましく感じました。純正ペアとなるNo.37Lとの組み合わせでは順当にNo.360SLの方が格上に感じましたから、同一メーカー内では相応に狙った音作りがなされているのは確かです。同社CDプレーヤーのNo.390SLは、同時比較でないとNo.37L+No.360SLとの区別が難しいくらいバランス的に似通った音がします。


このDACの傾向としては、音像描写、音場描写共コクのある表現をしてきますから、合わせるトランスポートは響きの長さや滑らかさを主張するものより、空間と音像を明確に描き分けるタイプが合うと思います。コク重視で更に深めて味わうならば上位機種のNo.360L+No.37Lペア、行き着く先はNo.30.6L+No.31.5Lでしょう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

VRDS系トランスポートとの相性が良く、特にWadiaのVRDS系CDトランスポートとの相性が抜群。本家ESOTERICのVRDSとも大変相性は良く、人によっては上位機種との下克上が起こると感じるでしょう。


純正ペアであるNo.37Lとの組み合わせでは、かなりあっさり味になり、好みは人それぞれではあるものの、上位機種であるNo.360SLに対しての下克上現象は起こりません。


Wadia170 iTransportとの相性も悪くありません。不安定な揺らぎが無く、微細なディテールまで曖昧さの無い明晰な音像と広大な音場を描き出す方向性そのものは、No.360Lとの相性の良さを感じさせます。滑らかでコクのあるDACですから、フォーカスがピタリと合って、空間に対し明確な音像を描写するタイプのトランスポートと良く合います。Wadiaと違い、どんなトランスポートと組み合わせても非常に上質な雰囲気を出してくれる無難なDACですが、普遍的上質さの更に上を覗けた時の快感はたまりません。


使用する電源ケーブルは、このDACの良さを引き出してあげるように、ワイドレンジで空間表現の優れた物が好ましいと思い、両端を6N銀ブレードのIeGO製に取り替えたAC DESIGNのConclusion1.4 PWを使用しています。Synergistic ResearchのResolution Reference Mk2 Master Coupler X-Seriesも非常に相性が良いのでお勧めです。


インターコネクトケーブルは、まず前提として受け側のプリアンプの仕様に合わせて、バランスかアンバランスかを選択します。このDACは、D/A変換のチップを2基搭載して左右のプラス/マイナスを生成しバランス構成としていますが、上位機種のようにプラス/マイナス毎に1基、計4基搭載するほどの徹底振りではありませんので、基本的にアンバランス回路を内部でモノーラル化したような設計であるという見方もできます。ですから、下流が完全差動回路で完結していないならば、かならずしも無理にバランス出力に拘る必要はありません。


しかしNo.38Lのように、プリアンプの内部がバランス構成の場合、プリへの入力時点で余計なバランス化回路を介さぬよう、バランスケーブルを使用して接続するのが合理的です。


使用するバランスケーブルには、 ワイドでフラットな帯域バランスを維持しながら上位機種と見紛うばかりのノイズフロアの低さを実現する、 Synergistic ResearchのResolution Reference Mk2 Balanced Interconnect X-Seriesを使用します。

常時通電が基本で、電源のスイッチは存在しません。電源ケーブルを差して電源を投入後、スタンバイモードにする事は可能ですが、パワーアンプのGOLDMUND MIMESIS 28 EVOLUTIONにはスタンバイモードが存在しないこともあり、スタンバイモードは使用していません。


インレットが筐体底面にあるので、電源ケーブルはL型プラグで特注するか、足場そのものを持ち上げて差せるようにする必要があります。


天板からサイド、底板中央のインレット脇まですっぽり覆っている筐体のネジ止め部分にもなっている純正の足は、足の裏に硬いゴム素材が貼付けられているので、同社のCDトランスポートが大理石にセットされて音作りされていることに倣い、大理石のブロックによる足場が最適であると考えます。

高級ラックにはこの時期のMark LevinsonのプリやDACを意識して棚板を分割していたりする製品もありますが、総重量50kgとなる大理石の土台に匹敵するラックを探すのは至難の業でしょう。


別室に置いてあるDENKENのDA-7050HG(200V入力仕様)から、Synergistic Researchを模して片側をNAOK式銀コン仕様とした自作の電源ケーブルを介して、電力を供給しています。

入力端子はAES/EBUが2つあり、STリンク、TOS、RCA、BNCまで一通り揃っています。使用しない端子は設定で落とせますが、空き端子にはCARDASの端子保護キャップを装着する事で、若干S/Nが改善されるように感じます。


内部は、左右にアナログ出力基盤、中央前部に電源、中央後部にデジタル基盤という構成です。デジタル部と電源部は、アナログ回路と仕切られた上で、それぞれシールドボックスに収まっています。上位機種も構造的にはほとんど同じです。最上位機種などは徹底していて、電源部が別筐体になり、アナログL、アナログR、デジタル部の各セクションへの独立給電となっています。


筐体は一見、何の変哲も無いように見えますが、天板と両サイドから足回りインレット直前までが一枚で作られていて、筒状にカバーされています。ネジ止めはインシュレーターと共有されていて、天板と両サイドで受けた外部振動は全てインシュレーターを通して土台へと流れる構造になっています。

Wadia170 iTransport

実はWadiaの中で、もはや事実上唯一のCDトランスポート。59,800円(税抜き)という価格設定は戦略なのか苦肉の策なのか。戦略とすれば当然、この100年に一度の経済危機を乗り切るためのものでしょう。しかし、Wadiaが本来得意とする筐体設計が生かせなかった末の苦肉の策だったとすれば・・・?


Wadiaは偏執的なまでに徹底した筐体設計をする事で有名ですが、今までのトランスポートにおいてそれが生かされて来たのは、CD再生という物が、アナログレコードほどではないにしても振動に対して脆弱だったからに他なりません。Wadiaが高コストなVRDSを好んで採用していた事からも、それが伺えます。


しかし、iPodをドライブメカとして使う場合、メモリー再生という性質からして根本から振動に対して大変強くなります。加えて、iPodは頻繁に取り外さなければならないために、筐体内に強固に固定する事は不可能で、常にむき出しにせざるを得ません。実際に試してみなければ断言出来ない事ではありますが、果たして心臓部をむき出しにした状態でWadia170本体だけを極端に強固にしたとして、競合他社の製品と市場で比較され、消費者に数十万の価格差を納得してもらえるだけの結果が出せるでしょうか?


Wadiaが選んだ道は、ニッチな市場の製品としては限界までコストを削減し、最低限の強度と品質を保って提供するということでした。これは市場戦略的にもオーディオ的にも正しい道であったと思います。オーディオ的には光(TOS/ST)と同軸とクロック端子だけという位まで徹底出来れば更に良かったかもしれませんが、あまりターゲットを絞り過ぎても短命に終わりますから、やはりこれで正解だと思います。ニッチでもマーケットを育てていけば、ターゲットを絞った製品を出す余地も生まれる事でしょう。

Wadiaは、言わずと知れたアメリカのデジタル技術集団。Power DACで大コケしてからというもの、買収などで肝心の技術者がClasseなど他社に流出し、存続が危ぶまれていました。同社はDSPによるD/A変換を確立したD/Aコンバーターの本家本元ですが、言うまでもなく素晴らしいDACである事は当然として、しかしひねくれた人間はDACではなくトランスポートに着目します。その偏執的なまでに徹底した拘りは回路を収める筐体にまで及んでおり、それが結果としてCDトランスポートにおいても突出した質の高さを誇っていました。主にVRDSを採用し続けた同社ですが、時代の変遷でCDトランスポートがラインナップから消え去り、100年に一度の経済危機のさなかWadiaブランドを救った大ヒット商品が、低価格とは言えやっぱりDACではなくトランスポートだったというのは、なんとも皮肉なものです。


Appleは、今さらですがWadiaと同じアメリカのコンピューターメーカー。オーディオ的位置付けの説明は困難です。あえて無理矢理位置付けるなら、トランスポートのドライブメカを提供するメーカー。世界的大ヒットとなったiPodが、技術の進歩により偶然オーディオ的な価値を生みました。特にオーディオ市場に対して戦略を持つわけでもない同社が、気紛れでオーディオ的に使えない方向へとシフトしてしまうのではという懸念を持つ向きもありますが、しかし100年に一度の経済危機のさなか、果たして極めつけにニッチな需要に対してしかブランドが確立出来ない企業の供給能力と、世界中に需要を生み出すセンスを持った企業の供給能力と、どちらの信頼性が高いか、論を待つまでもありません。これからも小型化、高性能化とモバイルのための耐久性の強化という方向性は変わりようもありませんから、不安よりも期待が勝ります。


CI Audioは、これも偶然ですがアメリカのメーカー。極めつけにニッチな需要を満たす商品を積極的にラインナップしている一風変わった企業です。コンパクトでリーズナブルな商品を主体としているのは、イギリスのCREEKと似ています。ただしラインナップはCREEKよりもずっとユニーク。CREEKが王道的にハイC/Pを目指してリモコン付きのパッシブプリなどを揃えているのに対し、CI Audioはコンパクトな筐体にデスクリートで組まれたA級増幅回路を詰め込み、正相/逆相2系統のRCA出力とすることでバランス出力化を可能としたDACなどがあり、強化電源まで別売するという凝りっぷり。日本の代理店の戦略なのかそれともあまり売れないためなのか、日本の定価に対して本国定価はだいたい半分程度が多く、値段だけ見て判断すると割高感があります。しかし実際に音を聴くと、本国の倍の値付けでも割安に感じてしまうほどのパフォーマンスを発揮するものが多くあります。特にパワーアンプのVMB-1などは小さななりからは信じられないくらいスケールの大きいファットな音を出します。昔聴いたGOLDMUNDのSR POWERが定価30万だった事を考えると、あくまでも感覚的な物差しですが、玄茶屋としてはそれ以上の価値があると言ってしまいたい。

Wadia 170 iTransport専用強化電源です。CI Audioの中でも極めつけにニッチな製品であり、同時にもしかしたら最も売れている製品かもしれません。49,800円(税抜き)という、ほとんどWadia170本体と同じ値段の製品ですが、この小さな箱がWadia170の価値を倍どころではないという程度では済まないほど高めてくれます。


競合他社の製品として、ショップブランドですが、吉田苑のENE-BOXがあります。定価は34,800円(税込み)とVDC-9.0より安いですが、CI Audioが輸入品である事を差し引けば、同クラス品と考えて良いと思います。ちなみに限定品として、既に完売してしまっていますがENE-DOMEというものもあり、そちらは59,800円(税込み)します。違いは箱と付属の電源ケーブルとDCケーブル、使用部品と内部配線、コンデンサ数との事で、ケーブル等を変える前提で買う場合、どちらが良いか迷いどころでしょう。いずれにせよ比較試聴しなければどちらが良いのか判断出来ない事ですが、基本的に玄茶屋ではショップブランドは避ける傾向にあります。あまり偏見は良くないのですが、ショップブランドとガレージメーカーであれば、後者を応援したい。


単なる趣味ですが、VDC-9.0のフロントパネルとWadia170のシルバーモデルが見た目の組み合わせでとても気に入っています。

玄茶屋的には、Mac一台、テラバイト単位のNAS一台、iPod touch 32〜64GBを三台以上、Wadia 170 iTransport、CI Audio VDC-9.0を、一応標準的なiPodトランスポートセットとして定義します。


なんだかんだで50万近くになってしまうかもしれませんが、音楽を聴くスタイルを抜本的に変革させるシステムです。コスト自体はさほど問題ではありません。CDを誤って傷つけてしまうリスクを考えれば、NAS一台程度のコストは見合ったものでしょう。毎度毎度数十枚のディスクを取りに往復する時間のムダや探す手間を省く事を考えれば、iPod touchに数十枚〜百枚程度を同期させてローテーションを組むのは、むしろ日常のフローの時間の有効活用になります。なにより、特に高額なCDトランスポートの所有者の頭痛の種であるメンテナンスのコストとリスクを考えれば、仮にドライブメカに問題が生じても3〜4万程度で丸ごと交換でき、入院させる必要も無いというのは、かなりフレキシブル&リーズナブル。CDのドライブメカにしても、現在残る名機と名高いCDトランスポートの保守部品が続々と底をつき、修理不能が相次いでいます。それに対し新製品の開発は遅れ、選択肢が少ないだけでなく需給バランスの悪化から狭い市場故のインフレが起きています。何を選択するかは自由ですが、狭い市場で息苦しさを感じるならば、広大な世界市場より生まれた変革をその手に掴みましょう。Macは日常的に使えば問題無し。


リッピングによる音質差を問題視する向きもありますが、玄茶屋としてはその点は一切考慮しません。変わる変わらない以前に、Macで読み、NASに保存し、ミラーリングし、iPod touchに同期し・・・と言う具合に単純にチェックすべき要素が多過ぎるのと、仮に変わったとして、

その度にイチイチ全てのCDをリッピングし直す?それとも最善のリッピング方法を見つけ出してからやる?何とも悠長な話ですが、自作PCが趣味ならばそれも良し。しかし即物的に結果を求める俗物玄茶は標準セットに落ち着きます。

余りにも組み合わせパターンの多い製品ですから、ここではあくまでもWadia 170 iTransport / iPod touch 32GB / VDC-9.0のセットを標準とします。また、比較対象は前メイントランスポートであるWadia7一点に絞ります。Wadia7は最終定価1,980,000円のお化けトランスポートなので、比較する事自体が論争を招きそうなのですが、全ては玄茶屋の使いこなしレベル、玄茶屋のシステム水準、玄茶屋の評価基準においての限定された比較ですので、一般論としての結論はほぼ間違いなく出ないということが前提となります。


Wadia170+VDC-9.0の音は、ステレオ再生の宿命として逃れられぬはずの、中空へ定位するが故の浮いて揺らぐという要素がほとんど感じられません。Wadia7でも揺るぎ無い定位は可能でしたが、そもそも揺れてしまうものを押さえつけているのと、最初から揺れないものでは、根本的な部分が異なっているという事を、嫌でも思い知らされてしまいます。明確に音がそこに立ち、止まって、響き、広がる。この揺らがない音の出方は、未体験の領域です。一音一音の軽やかさと明晰さが両立し、深く広く高くという広大な音場において、膨大な音数でも暴れる事無く在るべき一点に音が集約されています。独特の高密度な低域だけは、Wadia7ならではのものでWadia170+VDC-9.0では及びません。ただし、低い帯域も明瞭に描いていますから、質的には必ずしも劣るものではありません。究極を目指して手段を選ばなければ、あるいはその点すら超える事も可能かもしれません。


音量を上げると音数の多いシーンや音圧の高いシーンで音の芯が若干抜けるような印象になりますが、これは筐体の強度不足に依る所が大きいと思われます。


iPotをドライブメカとして見た場合、音楽をCD100枚分程度詰め込んだカートリッジを差し替える要領で数台ローテーションさせれば、数千枚のコレクションがあろうと実用上問題無いどころか、選ぶ手間探す手間入れ替える手間を差し引けば、充分効率的な再生が可能です。


普段ほとんど聴かないCDを本当にすぐに聴きたい衝動に駆られたのなら、少し妥協してサーバーからデータを読み込んでMacやPCの光出力で再生させれば良いだけですし、iPodの中身を一枚残らず入れ替えるような場合でも、1日ちょっと待てば全て入れ替わります。


ただし、頻繁にiPodを差し替える事を考えた場合、Wadia170本体の端子を保護する意味と音質向上的意味を兼ね、Dock延長ケーブルは必須となります。


そもそも、iPodはCDトランスポートで言えばドライブメカのようなものですから、Wadia170の薄い天板に置かれたプラ板に支えられている端子に縦に差すなど、見るからにというか実際グラグラで良い置き場とは到底言えません。色々なお店から補強パーツも売られていますが、底版を厚い金属で補強しようと、天板にカーボンを貼付けようと、構造的な弱さは解消出来ていないため手を出す気にはなれません。コスト度外視なら筐体そのものをアルミの削り出しで作ってしまう事も考えられるでしょうが、Dockの様式そのものが構造的に不安定である事は否めないので、多少の接点増加に目をつぶってでもDock延長ケーブルを使ってiPodを丈夫な土台に平置きするのが最善であると考えます。ケーブルの端子を差す箇所としてだけ見れば、ベストではないもののDockの様式でもそれほど問題はありません。TransparentやMIT等の箱付きケーブルを見ても、接合面には極端に神経を使っているように思えません。恐らくiPodでなくコネクターであれば軽いため影響は軽微なのでしょう。

Mark Levinson No.360Lとの相性は未知数です。ただし、Wadia170付属のACアダプタをCI Audio VDC-9.0に変えた場合の変化の方向性そのものは、No.360Lとの相性の良さを伺わせるものです。Wadia170は音像を骨格や肉付きまで明晰に描きますので、Wadia7の密度の高さによるものとはまた違ったNo.360Lとの補完関係となりそうです。


振動対策にカーボンインシュレーターやステンレス補強板等々出ておりますが、それ以前に振動対策とはまず何よりも土台となるラックが重要であるというのが玄茶屋の見解です。その上で、Music ToolsのISOstatic Referenceは、Wadia170にとっては過ぎたるは及ぶ最上級のおもてなし。厚さの異なる3層の強化ガラスは共振周波数を可聴帯域外に追いやり、同時にガラスの重量によって振動を抑え込みつつ、溶接加工のフレームによって振動を熱に変換します。付帯音をほとんど感じず、音の密度をむき出しにさせ、空間を深く広く感じさせるISOstatic Referenceは、トランスポートにとって最良の選択の一つです。


それでもWadia170の純正のゴム足はあんまりなので、プリズムインシュレーターと大理石を介して設置しています。

製品そのものは今さら紹介するまでもありませんが、玄茶屋としてはドライブメカとしての位置付けで扱います。


オーディオにおけるトランスポートの変遷は、初期のSONYのCDP-R1/DAS-R1セットなどにおいても、ツインリンクという名のクロックを同期させる独自規格があったことからも、単なる装飾ではなく技術者が本気でトランスポートによって音を良くしようと取り組んでいた事が伺えます。ただし、初期の製品以降、何故かdCSが流行るまでクロックに関してさほど焦点が当てられなくなり、むしろドライブメカの機構や筐体の作りに力を入れた製品が多くなります。そのSONYが行き着いた先が、デリケートなレンズを動かさないことで精度を高めようとした光学固定方式で、ESOTERICが追求したのが円盤そのものの揺れを抑え込むVRDS、そして今なお名機として名を残すスイングアームは、レンズの追従速度が速く直下型の振動を受け流すのが特徴でした。どの方式も利点があれば欠点もあり、極端な原理主義者による攻撃的な論争も引き起こす等、いずれにせよオーディオ界に功罪残すほどの名機を輩出しました。


時代の変遷により技術革新が進み、PCによるリッピングというものが確立されます。CDの中身をファイルデータとして高速で取り込むという大変素晴らしいものですが、ほんの数年前までは、音楽好きが持つ数百〜数千枚、下手をすると万に届く枚数のCDを取り込む為には、少々敷居の高いコストを支払わなければなりませんでした。しかも、読み込んだは良いものの、ただCDのデータを再生させるだけにしては大き過ぎるOSに、素人でも組めるが故に基本的に大ざっぱな筐体、普通に組んでも高性能過ぎて様々なノイズをまき散らす上ムダな機能満載のパーツ等々、作る事そのものを趣味とするならばともかく、CDトランスポートの名機を求めるような、即物的に結果を求める人間にとって、PCトランスポートというものは単なる自作PCのとっつきにくさとは違った意味で敷居の高いものでした。


その敷居を低くしてくれたのが、iPodです。専用設計されたものではありませんので当然余計なデバイスも搭載されていますが、しかし桁違いに軽いOSにタッチパネルの操作性の高さと視認性の良さは特筆すべきもので、特にハイエンドオーディオの伝統的な物量投入では到達不可能なほどコンパクト化された高密度な本体は、モバイル市場から生まれた偶然の一致ですが、オーディオとして見れば一つの極致です。ある意味、高密度にモジュール化されたドライブメカと捉える事も出来ます。

Wadia170には、RCA同軸デジタル出力端子、RCAアナログスルー出力端子、Sビデオ出力端子、RCAコンポーネント出力端子、ミニDIN3ピンDC入力端子とありますが、当然玄茶屋ではデジタル出力とDC入力しか使いません。


VDC-9.0のDCケーブルは脱着式で端子も低価格商品なのが幸いして一般的なものなので、自作品などに交換が可能です。

Wadia170付属のACアダプタもCI Audio VDC-9.0も、常時通電が基本で電源スイッチは存在しません。Wadia170には通電ランプがありませんので、VDC-9.0の青いランプだけが唯一通電状態を示してくれています。


DCケーブルは脱着式ですので、その気になれば自作出来ます。良い線材が手に入れば考えたいところ。実行した場合には後日追記します。


電源ケーブルにはELECTRA GLIDEのFATMAN 2000 GOLDを使います。洪水のような情報量を感じさせてくれるケーブルですが、プラスティックのフレームが仕込まれており、ケーブルの数カ所が間接として曲がるだけで捻る事すらままならないという、音以外で選ぶ理由を探すのが難しいキワモノです。艱難辛苦を乗り越え、上流から下流まで各機器に試した上で、このケーブルの特徴である膨大な情報量を最も顕著に感じさせるのが最上流のトランスポートであると判断したわけですが、極めて幸いにもWadia7もWadia170も電源部は別筐体となっており、特にVDC-9.0はコンパクトなのでケーブルに合わせた設置が可能です。なお、接続するコンセントの向きは、向かって右側にアースピンが来る横向き限定です。それ以外ではVDC-9.0が90度ないし180度回転する羽目になります。


電源部の設置には制限がありますので、VDC-9.0はMusic ToolsではなくKRIPTONのDIE HARD Mk2 SCOOPの上に、プリズムインシュレーターを介して置いています。内部に鉄球が仕込まれ、振動をよく吸うボードなので、トランス電源にとっては良い置き場かもしれません。


別室においてあるDENKENのDA-7050HG(200V入力仕様)から、Synergistic Researchを模して片側をPADのCRYO-L2とした自作の電源ケーブルを介して、電力を供給しています。


© 玄茶屋 2016
inserted by FC2 system